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広島高等裁判所松江支部 昭和38年(う)89号 判決 1964年1月20日

主文

原判決中被告人安原幸雄に関する部分を破棄する。

被告人安原幸雄を懲役二年に処する。

被告人安原幸雄に対する原審の未決勾留日数中一〇〇日を右本刑に算入する。

押収にかかる物件中原審裁判所昭和三八年押第一一号の証第一号猟銃(五連銃)一挺、同じく証第二号猟銃(二連銃)一挺、同じく証第六号の一猟銃実包一二四発及び同じく証第六号の二発射済み薬莢五個を被告人安原幸雄から没収する。

その余の被告人についての本件被告人及び検事の各控訴をいずれも棄却する。   訴訟費用中原審証人安原敬子(第一、二回)に支給した分は被告人安原幸雄の負担、当審証人西平穣に支給した分は被告人西平次郎の負担、同森節子に支給した分は被告人森勝の負担、同鷲見榛、同豊田健一、同岩見年容に支給した分は、被告人西平次郎、同森勝、同安原幸雄、同内田義輝、同邨上健一の負担とする。

理由

検察官香山静郎の控訴の趣意は記録編綴の鳥取地方検察庁検察官検事吉開猛名義の控訴趣意書、被告人西平の主任弁護人前田修の控訴の趣意は同弁護人及び弁護人田中節治名義の控訴趣意書、被告人森、同内田の弁護人前田修の控訴の趣意は同弁護人名義の控訴趣意書、被告人邨上の弁護人中田正子の控訴の趣意は同弁護人名義の控訴趣意書、被告人安原、同藤本の弁護人君野駿平の控訴の趣意は同弁護人名義の控訴趣意書各記載のとおりであり、被告人古田、多胡の弁護人田中節治の検察官控訴に対する意見は同弁護人名義意見書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

(被告人西平関係)

一、弁護人前田修同田中節治の控訴趣意中原判示第一事実に対する事実誤認の主張について

所論は、被告人西平において判示の如く小田組事務所に出かけて発砲したことは間違ないが、然し右は偵察に赴いたところ相手方から狙撃されたので、これに対する威嚇の目的で、致命傷を与えにくい散弾を用い相当距離からしかも空中に向けて発砲したものであつて、殺害の意図を有しなかつたものであるのに、原判決がこれを殺人未遂に問擬したのは事実の誤認であるというのである。

然しながら原判決挙示の証拠並びに原審で取調べた司法警察員作成昭和三八年一月二八日付検証調書及び当審裁判所実施にかかる検証調書を総合すると、原判示の事実を肯認することができる。即ち、被告人西平は検察官に対する供述調書において、小田組々員を殺害する意図であつたことを認めているのみならず、初回の襲撃に失敗すると再度の襲撃を試み、空中に発砲したのでなく小田組事務所隣家の屋根にいた同組員めがけて発砲し、使用した二連猟銃及び実包の機能と射程距離の点からいつても命中すれば相手に致命傷を与え得る関係にある二二、八米離れた地点から発射しているが、射程距離二五米以内であれば人体に致命傷を与え得ることが前掲証拠により明かであつて、殺意を以て発砲したがその目的を達し得なかつた事実を認定するにつき足らないところはない。論旨は理由がない。

二、弁護人前田修の控訴趣意中原判示第二(二)事実に対する事実誤認もしくは法令適用の誤りの主張について

所論は、被告人西平において原判示平田会事務所において鍬の柄が存置してあるのを見かけたことは間違いないが、同被告人には共同加害の目的もなく、又そもそも右事務所を住居としているものであるから集つて来たという関係にはないものであり、自分の住居から退去しない限り集合したことになるというのもまことに不合理であつて、原判決が兇器準備集合罪に問擬したのは、事実を誤認したか又は法令の解釈適用を誤つたものであるというのである。

原判決挙示の証拠を総合すると、原判示冒頭事実記載の如き経緯により、昭和三八年一月一二日午後八時過頃小田組々員より被告人西平等の所属する平田会の鳥取支部事務所が襲撃され、よつて原判示第二(一)(二)事実記載の各被告人が右事務所に集つて来たこと、もつとも、あるものは従前より右事務所を住居とし、あるものは当時偶々右事務所に遊びに来ていたものであり、あるものは襲撃の後にこのことを知つてあるいは知らずして事務所に来たものであつて、襲撃の難に遭つたものはその直後頃から、襲撃の模様を後に聞いたものはその直後頃から、いずれも小田組々員の生命身体等に対する共同加害の意図を有するに至つたこと(以上についての詳細は後に被告人安原の控訴趣意に対し述べるとおりである。)、被告人西平自身は平田会鳥取支部長たる被告人安原が興行師をしているのでその手伝いをするとともに、従来より右事務所を住居とする者であること、小田組々員による襲撃後殊に支部長名義の看板が奪取されていることを見てくやしくてたまらず、直ちに前記二連猟銃と実包を持出し、被告人森と共に前記の如く小田組事務所を襲つて殺人未遂を犯したこと、事務所に帰つて同所にたむろする被告人安原、同邨上、同多胡、同森等と小田組事務所の模様及び打ち合いの状況について話合い、更に自から被告人内田原審相被告人本庄和夫のかり出しに奔走したこと、なお、前記の如く集つている各被告人が小田組々員の生命身体等に対し共同加害の目的を有していることを認識しており、同月一三日夕刻には原判示の如く鍬の柄が購入されたが、おそくとも一四日朝までには階下の部屋に右一〇本位が備え付けられていることを現認し、自からも、これを手にし相手方の襲撃があつた時はこれで立ちむかい害を加える考えで警戒を続け、引続き原判示の期間右事務所内外に待機していたこと、を認めることができる。

刑法第二〇八条の二における集合とは通常場所的移動を伴うものであるが、必ずしもそれを前提とするものではなく、既に時と所を同じくしている二人以上のものが、同条所定の共同して害を加うる目的を有するようになり、それによつて社会的に一個の集合体とみられるに至つた場合も含まれるものと解する。而して既に右共同加害の目的を以て集合しているものが、何者かによつて兇器の準備がされていることを知つた場合は、速やかに右集合体から離脱しない限り不真正不作為犯として本罪が成立する。離脱しない限り本罪が成立すること、即ち離脱の義務あることは場所的移動をしないもの殊に集合場所が自己の住居であるものにおいても変りはないというべきである。もつとも自己の住居である場合そこより退去すべき義務は必ずしも存しないが、右集合体より離脱すること、即ち右共同加害の目的を放擲することを要し、これをしない以上本罪が成立する。前記認定の如く被告人西平が住居とする右事務所に他の被告人が集まり、被告人西平を含めて各人が小田組々員の生命身体に対する共同加害の目的を有するに至つたものであるから、被告人西平を含めて集合したことになり、兇器たる鍬の柄の準備あることを知りながら、敢てこれを手にして相手を迎撃すべく事務所を警戒する等なお集合体内に止まる意思を明示しているものであるから、本罪の成立することはいうまでもなく、原判決にはこの点に事実の誤認も法令解釈適用の誤りもない。論旨は理由がない。<中略>

(被告人安原関係)

一、弁護人君野駿平の控訴趣意中原判示第二(一)事実に対する事実誤認、法令適用の誤りの主張について

所論は、(イ)原判決は被告人安原及び判示その余の被告人に小田組々員の身体に害を加える目的があつたと認定しているが、各被告人にかような目的は存在せず、関係被告人の供述中にその存在を肯定する部分があるとしても、右は相手の殴込みを防ぐには相手をたたく必要があろうとの取調官の理詰めの誘導による供述であつて証拠となすに足らず、他にはこれを認めるに足る証拠がない。(ロ)原判決は被告人安原は被告人杉本をして鍬の柄三〇本を購入させた旨、多数組員をして鍬の柄を携えて待機せしめた旨、その他全般的に組員を指揮した旨認定しているが、鍬の柄の購入を指示したのは被告人河本であつて被告人安原は代金を支払つたに過ぎず、又被告人安原において組員に鍬の柄を持つて待機せしめたりその他組員全体の指揮をとつたとみるべき何等の証拠も存在しない。(ハ)かりに被告人安原において「事務所に集つて来た多数組員をして鍬の柄を携えて待機せしめ」た行為があつたとしても、それは既に任意に集合してきた者をその後において内部的に統制した行為に過ぎず、刑法第二〇八条の二第二項は集合せしめる行為を把えて特に重く罰するものであつて、内乱罪や騒擾罪における如く集団内の地位によつて処罰の態様を異にしようとするものでないのであるから、結局原判決は内部的統制行為を以て集合せしめたとする法令の解釈適用の誤りを犯したものであるというのである。

原判決挙示の証拠を総合すると、被告人安原は原判示冒頭事実記載の如き経緯によつて平田会鳥取支部二代目支部長となり被告人杉本及び同河本はその兄弟分として幹事を勤め、被告人西平、同森、同内田、同多胡、同邨上、同藤本及び原審相被告人本庄和夫はその輩下としていずれも同支部に属する組員であり、被告人森本、同古田は同じく平田会の系統に属する池上組々員であること、即ち被告人安原を除くその余の者は被告人安原の指揮を受け得る地位にあることを認めることができる。

右各証拠を総合すると、昭和三八年一月一二日午後八時過頃原判示の平田会鳥取支部の事務所であり被告人安原の住居である家屋において、被告人安原、同邨上、同多胡、同森は階下で将棋をさし、被告人西平は二階でテレビを見ていたところ、原判示の如く小田組々員の襲撃があり、被告人安原等に対し兇器を示して脅迫し猟銃を発射しあまつさえ支部長名入りの看板を奪取して引上げたこと、被告人等のうち一部の者は屋外に飛出したがやがて同家に帰えり、その後被告人西平同森において原判示第一の如く小田組に対し積極的行為に出るものがあつたり、あるいは連絡、警戒のため出向むくものがあつたにしろ、右各被告人は同月一五日各判示の時刻頃まで同事務所内外にいたこと、被告人西平、同森は前記の如く被告人安原の興行手伝いをなし従前より右事務所を住居としていたが、被告人邨上同多胡は偶々遊びに来ていたものであること、被告人河本は同日午後九時頃映画見物に出かけ、帰途偶々平田会事務所に立寄つて小田組より襲撃があつたことを聞き、そのまま原判示の時刻頃まで同所に止まつたものであること、被告人藤本は同日午後九時前市内川外大工町のいこい麻雀屋に立寄つたところ、同所にいた人に平田会支部に異変があつたことを聞き右事務所にかけつけ、そのまま原判示の時刻頃まで同所に止まつたものであること、被告人内田は同日午後一〇時頃弟の宅において妻の父親より、小田組と平田会の衝突をラジオが報じた旨を聞き、右事務所にかけつけ、そのまま原判示の時刻頃まで同所に止まつたものであることを認めることができる。即ち以上の者は、小田組々員が襲撃した際既に平田会事務所に居たか又はその後に自から事務所に来たものであつて、誰からも右事務所に呼びよせられた関係にはないものであることが明らかである。

原審相被告人本庄和夫は検察官に対する供述調書及び原審公判廷において、一二日夜中自宅で小田組平田会が衝突した旨のラジオ放送を聞いて右事務所にかけつけたと供述するのに対し、被告人西平は検察官に対する供述調書において、一二日午後一〇時頃ハイヤーによつて内田、本庄を呼びに行つたところ本庄だけ在宅したので、これを事務所に連れ帰つたと供述するところである。かりに被告人西平において右本庄を連れ帰つたとの供述が正しいとしても、右の事実を被告人安原において知つていたとの証拠もないので、いわんや被告人安原が指示して呼びよせたと認定することはできない。被告人杉本は右襲撃当時兵庫県豊岡市におり、被告人河本において一二日夜電報を打つて平田会豊岡支部を通じ呼びよせたものであることが前掲各証拠によつて認められるが、右の点につき被告人河本は検察官に対する供述調書において、「私は今度は小田組と平田会との対決になるかも知れんから、神戸の本部その他境港等の支部にお詫び旁々報告をした方がいいのではないかといいましたら、清水(被告人安原のこと)も了解されました。私は取敢えず平田会の豊岡支部には自分が電報を打ちますと清水さんに話しました。」と供述するので、被告人杉本を呼びよせることにつき被告人安原の了解があつたとは考え得るけれども、右供述のみで被告人安原の指示によつて呼びよせたと認定するにはなお困難があるというべく、他には被告人安原が被告人杉本を呼びよせたことを肯認させるに足る証拠はない。なお被告人安原が前掲被告人以外のものを当時呼びよせたとする証拠も存しない。

以上の次第で、被告人安原はその余の被告人等に対し指示を与え得る地位にはあるけれども、判示第二(一)事実につき散在する者を指示して一個所に集めるという形においてこれを集合せしめたとする証拠はないといわなくてはならない。

而して既に時と所とを同じくする二人以上のものが、刑法第二〇八条の二所定の共同して害を加える目的を有するに至れば、同条第一項にいう「集合した」ことになることは、被告人西平の控訴趣意に対し説示したとおりであるが、右同様に、既に時と所とを同じくする二人以上のものに対し右所定の目的を附与し社会的に一個の集合体を形成せしめたものは同条二項にいう「集合せしめた」ものに該当するというべきである。そこで、被告人安原において時と所とを同じくする、前掲の者達に対し、小田組々員の生命身体に対し共同して害を加うる目的を附与したか否かにつき案ずるに、これを肯認するに足る証拠はないというべきである。前掲各証拠によると、むしろ襲撃の難に遭つたものはその瞬間から小田組々員に対する反撃もしくは再度襲撃の場合迎撃して共同して加害する意図を持ち、その後かけつけたものも襲撃の知らせを聞いた時から、あるいは到着後襲撃模様の詳細を聞いた時から前同様の意図を持つたことが認められる。即ち、両派の間に実力行使はなく単に相反目している状態にある時、相手に対し共同して加害する目的が形成されるについては、長もしくはその他のものによる形成行為が存在することが多いが、本件の場合は小田組々員による襲撃を機縁として右共同加害の目的が形成されるに至つたものであり、支部長たる被告人安原の指示をまつ必要がなかつたものと見ることができる。もつとも原判示鍬の柄の購入については、被告人杉本が検察官に対する供述調書において「河本が私に鍬の柄のようなものを買うてきてくれんかといい、私はそんなものはいらんというと、河本はまあ買うて来ておいてくれというので、私は二階に上がり安原に河本が棒を買うて来てくれというから金を出してくれというと五千円黙つて渡した。」旨供述しているところであつて、右は被告人河本が被告人杉本に意見を具申し、被告人杉本において長たる被告人安原の意向を質したところ被告人安原において購入すべく決裁したものであつて、畢竟被告人安原において鍬の柄を購入したものとみることが可能であるが、然し鍬の柄を購入することにより直ちに共同加害の目的を附与したとはいえないのであつて、かようにみ得る格別の事情があつたとの証拠はなく、むしろ前記の如く各人は既にそれ以前に共同加害の目的を有していたというべきである。なお被告人安原が平田会鳥取支部長であり、その余のものは弟分もしくは輩下であるので、支部長のために小田組への反撃を決意したものがあつたかもしれないが、そうだからといつて、被告人安原が右の目的を附与しよつて集合せしめたものであるといい得ないこともとよりである。

被告人安原は平田会事務所を住居としているが、小田組々員に対し共同して加害する目的を有していたので(その目的の存在することは代金を支払つて鍬の柄三〇本を購入させたことによつても明瞭である。)、他の者と同様刑法第二〇八条の二第一項の集合したことに該当するけれども、前叙の次第で「人を集合せしめた」との証拠はないというべく、これを刑法第二〇八条の二第二項の兇器準備結集罪に間擬した原判決は事実を誤認したかもしくは法令の解釈適用を誤つたものというべく、原判決中被告人安原に関する部分は、この点において到底破棄を免かれない。論旨は理由がある。

(従つて同被告人についての弁護人及び検察官の量刑不当の主張についての判断は省略する。)<中略>

(被告人邨上関係)

一、弁護人中田正子の控訴趣意中原判示第二(二)事実に対する事実誤認の主張について

所論は、原判決は被告人邨上が共同して小田組々員の身体生命に害を加える目的があつた旨認定しているところ、被告人邨上等が原判示の如く平田会事務所に待機していたのは単に自衛のためであり、被告人等の自衛の結果として相手が害を受けることがあつたとしてもそれは本条にいう害を加える目的とは関係のないことであり、原判決は事実を誤認したものであるというのである。

然しながら相手方の襲撃が予想され、襲撃があつた場合はこれを迎撃し、よつて共同して相手方の生命身体等に害を加える目的がある以上刑法第二〇八条の二所定の共同して害を加える目的ありとするに十分であつて、右の目的は自から出撃して害を加える場合に限られるものではない(最高裁判所昭和三七年三月二七日第三小法廷判決)。本件の場合各証拠によれば、被告人邨上には小田組々員の襲撃があつた場合共同して反撃しその身体生命等に害を加える目的があつたことが認められ、原判決にはこの点に事実の誤認はない。論旨は理由がない。<中略>

以上の次第で被告人安原を除くその余の被告人については被告人及び検事の各控訴は何れも理由がないので刑事訴訟法第三九六条に則りこれを棄却し、当審における訴訟費用の負担につき同法第一八一条第一項本文を適用し被告人安原については前記の如くその控訴は理由があるので刑事訴訟法第三九七条第一項第三八二条により原判決中被告人安原幸雄に関する部分を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い当裁判所において直ちに判決する。

(罪となるべき事実)

被告人安原幸雄は、昭和二七年の鳥取市大火直後福山市から鳥取市に来て、「山陰三尺組」という的屋の団体に加盟して露天商を始めたが、その後松山芳太郎という博徒の輩下となつてこれと行動を共にするようになり、右松山が昭和三六年九月頃、神戸市内に本拠を置き平田勝市なる者を会長として一般社会から暴力団と目されている「平田会」の下部組織として「平田会鳥取支部」を結成し、その支部長となつたので、同被告人もこれに加盟したが、米子市方面にまで「平田会鳥取支部」の繩張りを拡張しようとしたため「柳川組」と称する暴力団と相互に対立するようになり、遂に右松山が柳川組々員に殺害されるという事件が発生したため、同被告人が右松山の後を継ぎ、清水一夫と名乗つて「平田会鳥取支部」の二代目支部長を襲名し、その事務所を肩書住居たる鳥取市東品治町一二六番地岩見年容方に移し、興行師として生活を送るとともに、平田会鳥取支部組員にして同被告人の輩下である相被告人西平、同森、同多胡等をしてその手伝いをさせていたものであるところ

第一、同じく鳥取市内に事務所を持ち、かねてから平田会鳥取支部と対抗関係にある「小西組山陰支部小田組」組員が、昭和三八年一月一二日午後八時頃猟銃、仕込杖、サーベル、短刀等の兇器を携えて前記平田会事務所に殴り込みをかけ、被告人安原等に対し兇器を示して脅迫する等のことをし、更に支部長清水一夫名義の看板を奪取して引揚げるという事件が発生し、更に重ねて小田組々員が襲撃することが予想される事態に立至つたので、右襲撃当時右事務所にいた組員である相被告人西平、同森 同多胡、同邨上はそのまま同事務所に止まり、更に急を聞いて同夜相被告人河本、同藤本、同内田及び原審相被告人本庄が、翌一三日には被告人杉本が右事務所に集つて来て、同人等はいずれも小田組々員の殴込みを迎撃し、これを撃退するためその身体生命に共同して害を加える目的を有するに至つたところ、被告人安原は各人に右目的の存することを認めるとともに自己も又右目的を固め、被告人杉本をして同月一三日午後七時過頃兇器として使用可能な鍬の柄三〇本を購入の上事務所に備えつけさせ、よつて右事務所において兇器の準備あることを知つて集合し

第二、被告人安原は被告人西平と共謀の上法定の除外事由がないにもかかわらず、昭和三六年一〇月二三日頃から同年一二月初旬頃まで同市川外大工町一九の七番地松山千恵子階下三畳間の床下に、ついでその頃から同三八年一月一二日頃まで同市東品治町一二六番地岩見年容方なる「平田会鳥取支部」の事務所二階押入に、猟銃二挺(原審裁判所昭和三八年押第一一号の証第一、二号)並びに同実包一二九発(同じく証第六号(一)(二))を保管し、以てこれを所持したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法律の適用)

被告人安原の判示第一の点は刑法第二〇八条の二第一項罰金等臨時措置法第二、三条に該当するので所定刑中有期懲役刑を選択し、判示第二のうち銃砲刀剣類等所持取締法違反の点は同法第三一条第一号第三条第一項刑法第六〇条に、火薬類等取締法違反の点は同法第五九条第二号第二一条刑法第六〇条に各該当するところ、両者は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段第一〇条により重い銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪の刑に従い、所定刑中有期懲役刑を選択するが、右銃砲刀剣類所持取締法違反の罪は前示前科と累犯関係にあるので、刑法第五六条第五七条を適用して加重するところ、以上は併合罪であるから同法第四五条前段第四七条第一〇条に則り銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪の刑に法定加重をなした刑期範囲内において被告人を懲役二年に処することとし、原審における未決勾留日数中一〇〇日を刑法第二一条に従つて右本刑に算入し、押収にかかる主文第五項掲記のものは判示第二の組成物件にして被告人安原以外のものに属さないものであるから、同法第一九条によつてこれを没収すべく、原審及び当審における訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用する。

よつて主文のとおり判決する。(裁判長裁判官高橋英明 裁判官竹村寿 裁判官石川恭)

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